著作権の保護期間延長問題を考える

雑感 著作権の保護期間延長について

 著作権の保護期間を、現在著作者の死後50年となっているものを、70年に延長すべきか否か問題になっている。そういったなか死後50年でよいという意見が研究者を中心に主張されており、いまのところ保護期間延長は現状のまま据え置かれる状況にある。
 そこでこの問題について考えることにしたい。
 まず、著作権法の目的はなにかという点である。だいぶ以前のことであるが、私は運輸省(現国土交通省)海上保安庁水路部(海図を作成等する部署。)で丸一日著作権法の講義を行ったことがある。そのときに私は、著作権法の目的は文化の発展に寄与することであり、工業所有権法のそれは産業の発達に寄与することであると述べ、前者は精神的な豊かさを意味し、後者は物質的な豊かさを意味すると説明した。そこで思うに、そうであるならば著作者が経済的な利益を追求したとしても「精神的な豊かさ」実現に関する目的を阻害することはない。ある者は著作者が金銭的利益を主張するのは文化の発展を目的とする著作権法に反するというが、それは妥当ではない。結果が文化の発展に寄与していれば良い。たとえば、かつて元アメリカ合衆国大統領リンカーンは「特許制度は天才の火に利益という燃料を注いだ(The patent system added the fuel of interest to the fire of genius)」と言っていたが、著作者に対してはまったくこの言葉は無関係かというとそうではない。著作者にも著作権という燃料を注ぐからこそ著作物を創作する意欲が沸く場合があるといってよい。ただその燃料は発明者に対するそれよりは少し弱いものだといえる。つまり独占権ではなく排他的権利であるからにすぎない。それは著作物を利用する側にとって配慮されているといえる。現に著作権法は著作権の制限規定を多く採り入れているわけであり、これは文化の発展を目的とするからにほかならない。かといって、だから著作者が金銭的利益を根拠に著作権延長を主張してはならないという根拠にはならない。創作活動という火に燃料を注ぐことはあくまでも創作意欲を掻き立てる要素にすぎないからである。
 つぎに死後50年も経った著作物など経済的価値がないとの主張がある。ゆえにそれ以上保護する必要はないと主張する。しかしこの考えに対しては逆に、だからこそ死後70年に著作権保護を延長しても問題はないということになる。しかも経済的な価値に基づくならば、私が昨年フランスに赴き地元の漫画関係者と話しをした結果が思ったとおりのものであったことからも強くそのことはいえる。それは何かというと、いまパリは日本ブームであるという。とくに日本の漫画は興味が持たれているという。1970年代頃にあった日本ブームとなにが異なるのかというと、興味を抱いている対象が異なるのである。かつての日本ブームはフランスの一部の知識人がほとんどであった。ところが近年、日本の漫画に興味を抱く人々は一般の人たちであるという点にある。ヨーロッパではこういったブームが長く続くことが、あるいは再燃することが十分考えられるのである。このことはふたつの意味を持つ。ひとつは日本の文化に触れてもらえる。ふたつ目は日本という国家の利益につながるということである。
 最後に、他の主張によれば死後70年に延長すれば利用者が不利益を生じるという。たしかに利用者側の問題をも考慮しなければなるまい。ならば憲法が保障する表現の自由との抵触に関してそれを調整する規定を著作権法に新たに設けるのが肝要であるといえる。
 いずれにせよ著作権保護の延長を早急に認めるべきである。
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by utplaw | 2009-01-26 23:26 | 佐藤より  

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